長田校長先生インタビュー!

他校にない取り組みで注目されてきた麹町中学校(以下、「麹中」という)。実際に子どもが入学してみると、戸惑うことも色々あります。麹中生の親はどういう視点で子どもを見守れば良いのでしょうか? 今の麹中の取り組みについて、広報委員が長田校長先生にお聞きしました。(インタビューは7月22日に実施しました)

ーー現在の麹中で導入されている他校にない独特の取り組み(例えば「宿題なし」「全員担任制」など)の主な特徴を教えてください。また、その取り組みは生徒にとってなぜプラスになるのでしょうか。

まず「宿題なし」についてですが、「宿題なし」というフレーズが強烈なため、誤解されて伝わっていることもありますが、「単語を何回書いて提出」のような、すでにできている生徒にも一律に同じ繰り返しを課すような宿題は出さない、というものです。一切の宿題がないということではありません。
新しい学習指導要領では「学びに向かう力」や「主体的な学び」といった点が掲げられており、学んだことについて自分がどう感じたか・考えたかということをまとめるような課題を宿題とすることは以前から行っています。

一律繰り返しの宿題をやめたのは、生徒1人1人によって各教科の理解度が違うからです。その子がすでにできていることを、ただの作業としてやることは、本当に時間を使ってやる意味があるか考える必要があります。もっと他にやりたい課題に取り組む方が、より深い・広い理解につながるのであれば、そのことに時間を使ってほしいと考えます。

時間は、誰にとっても同じであり、限られています。自分の弱点を克服することに重きを置く子もいれば、発展した内容に取り組みたい子もいますから、時間の使い方は、その子に合ったものが望ましいはずですが、一律の宿題は時間の使い方を限定してしまいます。

そういった宿題をなくすことで、生徒が自分の時間について裁量を持ち、自分が必要とする取り組みを計画的に進めていくことができる。それが「宿題なし」のプラスの面であると考えています。

次に、「全員担任制」ですが、担任を固定せず、学年教員全員がチームで生徒を見ていくという取り組みです。教員も人間なので、生徒の側からすると、フィーリングの合う教員もいれば、相互理解に時間のかかる教員もいるかもしれません。そういった点から、生徒が相談しやすい教員に相談できる環境を作るため導入しました。また、教員の立場からは、全クラスに自分が担任として入る機会があるため、生徒理解が深まっていくことがメリットとしてあげられます。

その他に麹中の特徴的な取り組みとして、2つあると思います。

1つは、生徒に大きな裁量を与えていること。具体的には、体育祭や麹中祭や避難訓練など、生徒が主体的に取り組む特別活動(学級活動・生徒会活動・学校行事)です。多くの学校ではこれらを教員主導で行いますが、麹中では生徒の意見が反映される仕組みがあり、生徒が自分事として高い意識で活動していると感じます。
行事を通じて、生徒同士で様々な調整をしながら、自分たちで運営した、自分たちが変えたという経験をすることは、他者との望ましい人間関係を形成することにもかかわることで、大切であると考えています。

もう1つの特徴は、スキルアップ宿泊に代表されるように、生徒に話し合いの場を設け、他者と合意形成をして、考えを発表するという活動が、授業・行事で計画的に行われ、3年間を通して発展させるプログラムとして作られていることです。人に伝える、発表するというのはこれからますます重要になっていく要素だと思いますし、それができる生徒になってもらいたいと思っています。

ーー前出の麹中の特徴的な取り組みについて、導入時から変更された主な点と理由について教えてください。保護者の中からは、ノート評価の復活に対する懸念の声もありますが。

取り組みは毎年少しずつ変化しています。例えば、単元テストについても、今年度は放課後に実施することはしていません。年間の実施回数も毎年見直しています。生徒の放課後の活動の保障や、負担感などを考慮しての変更です。

麹中には様々な教育活動が導入されていましたが、これが終わったら次はこれ、と慌ただしいカリキュラムになっていた面もありました。教育活動を実施する際は、一部生徒の参加ではなく、より多くの生徒が参加しその教育的効果が期待されるものでなくてはならないと考えます。新型コロナウイルス感染症の影響で、やりたくてもやれないというのもあったのですが、活動を精査するきっかけにもなりました。落ち着いた状況で生徒に本当に必要なものを提供するため、精査の結果、実施しない方向とした活動も幾つかあります。

ノートを確認することについては、きれいにまとめているかどうか、見た目の評価をするものではありません。あくまでも、記載している内容を見るためです。
先ほども話に出ました新学習指導要領では、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点の評価を総括して、評定を算出することになりました。このうち、「主体的に学習に取り組む態度」は、「粘り強い取り組みを行おうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」を評価するため、例えば、生徒のレポートやノートへの記述内容を確認しています。ノートの確認は、そのための1つの資料として行っています。

ノートをきれいにまとめることが目的ではない、というのは以前から変わりません。ただ、「ノートは人に見せるものではない」というメッセージが、ノートを取ること自体の軽視として伝わってしまい、きちんと取れている子とそうでない子の二極化が生じていました。

ノートのまとめ方は、フレームワークのガイダンスを実施して、各教科でこうすると良いということを年度当初に伝えますが、基本を理解したら、自分のわかりやすい方法に変えていって良いと思っています。ノートも含め、自分に合った学習方法を身に付けることが大切です。きれいにまとめることが目的ではありませんが、要点がまとまっている、見やすいノートは、生徒本人にとっても内容がよく整理され、理解されている場合が多いと思います。

ーー生徒が自分にとって必要な学びを自覚し、家庭学習で取り組んでいくために、どのような支援があるでしょうか。また、親はどのような視点で子どもを見守るのが良いでしょうか。

1人1人得意・苦手や理解度も違うので、一律でこうすればというのは申し上げにくいのですが、学校からは、計画的に取り組むということを折に触れ指導しています。
家庭学習でどのように取り組めば良いかわからない場合は、各学期に行われる三者面談の時間などを活用し、ぜひ学年教員・教科教員に率直に相談してもらえればと思います。

家庭でお願いしたいのは、学習は自分のために行うもの、というメッセージを粘り強く、繰り返しお伝えいただきたいことです。
また、できればで結構なのですが、保護者も何か学んでいる姿を見せていただけると、生徒にとって刺激になると思います。テストや受験があるから学ぶのではなく、大人になっても学ぶことが大切なのだということをメッセージとして伝えていただくのが一番かな、と思います。

ーー子どもが手帳をうまく活用できていないため、フォローしてほしい、という声もあります。手帳ガイダンスののち、生徒の手帳活用について、学校側でどのように支援されているか教えてください。

学校では毎日のP&P(Planning&Presentation)や麹中スタディの時間を利用して、予定の確認・記述を行っており、手帳に書くことの有効性や計画性をもって取り組むことの大切さは、生徒にそのメリットが伝わるよう指導しています。

手帳で計画的に取り組むことが難しいと感じる場合は、個別に対応しますので、生徒から直接担任に相談してもらうのが良いと思います。

ーー面談や学校に相談する際、どの担任の先生にお願いすれば良いか迷う、という声もあります。お勧めの決め方がありましたら教えてください。

誰に相談すれば良いかわからない時は、まずは現時点のクラス担任を思い浮かべていただければと思います。

また、ご家庭で、教員の名前が生徒との会話の中で出てきたら、「どんな先生なの?」と聞いてみてください。この教科に興味がありそうだな、この教員の授業は楽しそうに受けているな、と感じられたら、その教員に相談してみても良いのではないでしょうか。
生徒の得意な教科や、部活動で関わっている教員との相性が良さそうであれば、そこから選択するというやり方もあるでしょう。

誰に相談すれば良いかわからない反面、誰にでも相談できるということでもありますので、メリットをご理解いただければと思います。

ーー夏休み・冬休みなどの長期休みも提出させるような宿題がありません。3年生は進路に向けての活動があると思いますが、1年生・2年生の夏休みはどのような時間にしてほしいと思われますか。

学期末に開く学年集会でもメッセージを伝えていますが、1学期を振り返って自分ができたこと・できなかったことを整理させ、長期休業期間を充実したものにするために、どんなことに計画的に取り組むと良いかを考えさせた上で休みを迎えています。

確かに麹中では、長期休業期間の提出物はほぼありません。それだけ生徒自身の裁量が問われるということ。決して学習することを軽視しているのではなく、自分が時間を使いたいものに精一杯取り組み、自分を高める時間に使ってほしいと伝えています。夏休みを利用してコンクールなどに挑戦する生徒もいますし、日頃なかなかできなかった教科の復習をするのも良いと思います。

ーー生徒がもっと気軽にスポーツを楽しめるよう、校庭や体育館・テニスコートなどの施設を部活動以外でも利用できる機会が設けられるでしょうか。

そういう機会ができれば面白いですね。ただ、安全面などから、それなりの仕組み作りが必要だと考えます。もし希望があるようであれば、時間帯や回数など含めて具体的な提案があると検討できるかと思います。放課後は部活動で使用している時間が多いため難しいかもしれませんが、昨年度は、PTAでスポーツアカデミーというイベントを実施しました。施設が空いている時間にそのようなイベント企画として行うのも1つの方法ではないでしょうか。

ーー最後に、麹中生の良いところと、課題と思われている点について教えてください。

3年生は希望者を対象に、高校受験を想定した面接練習を校長がやるのですが、その中で感じるのは、自分の将来の姿や、どうしてそうしたいのかを明確に話せる生徒が多いです。麹中の生徒の良いところは、そのように自分の考えを表現できること、そして伸び伸びしているところだと思います。

課題としては、モノを大切にしてほしいと思っています。今年度は宿泊行事も実施することができましたが、忘れ物が多いし、取りにも来ない。普段使っている文房具をはじめ、「無くなれば買ってもらえる」という感覚があるのかもしれませんが、愛着をもって大切に使ってほしいです。
今後高めていきたい点としては、最近は集団として行動する機会が失われてきたところもありますが、集団としての規律や行動が取れるようにすることです。また、言葉選びなど、TPOに応じた判断力と行動力を身に付けた生徒になってもらえるように取り組んでいきたいと思います。

長田校長先生、お忙しい中ありがとうございました!

2学期も引き続きインタビュー企画を予定しています。保護者の皆様からも質問を集めたいと思いますので、ご協力よろしくお願いいたします。