堀越校長先生にインタビュー!

PTA広報は昨年度の長田前校長先生インタビューに続き、今年度赴任された堀越校長先生にインタビューさせていただきました。麹町中学校(以下、「麹中」という)は「自律・尊重・創造」を教育目標に掲げ、単元テストなど他校にない独自の制度を持ち、学校行事等の活動でも生徒の主体性を重視するという特徴があります。コロナ禍を乗り越え、改めてコロナ後の教育の在り方が問われている今、麹中の魅力と課題は?そして、これからどんな学校を目指すのでしょうか?(インタビューは2023年7月25日に実施しました)

ーーまずは、堀越校長先生ご自身について教えてください。

生まれは東京の下町です。大学から千葉県に移りましたが、小・中・高と東京の公立校で過ごしました。趣味は…広く浅く多趣味なんですが、今は登山とサッカー観戦かな。夫婦で毎月低山に登ったり、サッカーはJリーグのサポーターなので毎月応援に行きます。

ーーどんな中学生でしたか。

中学に入学した時は前から2番目と背が小さくて、卒業の時には後ろから2番目。自分でも驚くほど急激に成長した時期だったので、貧血で倒れたりしました(笑)。部活はずっとバドミントン部。生徒会役員も3年間やって、中3では生徒会長でした。生徒会の活動が活発だったので、部活より生徒会に関わる時間が長かったですね。役員として姉妹校と交流するため青森県に派遣されたり、弁論大会に出たりしました。昭和なので、麹中のように生徒が活動を企画できる時代ではありませんでしたが、前年よりも良い活動にするためにどうするかを考えて取り組んでいました。

ーー教員として大切にされていることは何ですか。

40歳までは教師として教育現場にいて、その後は行政(教育委員会)の仕事が長かったです。

現場で教えていた時に大切にしていたのは、子供の可能性をもっと伸ばしてあげるにはどうしたら良いか、特に学校の中だけではなく、学校の外で他の学校の生徒と競い合える子供たちを育てるにはどうしたら良いか、をずっと考えていました。技術科なので、発明コンテストとかロボットコンテストに出たい子供を一緒に頑張ろうと取り組んだりしました、部活(バドミントン)でもそうですね。

その後、管理職になってからは、ぐいぐい前に行ける子供たちだけではなく、そうではない子供も自己実現できるにはどうしたら良いかを考えるようになりました。ひっそり座っていても、内心では自己実現したいという想いのある子供だっている。中学生になると小学生よりも我慢してしまうことが多くなりますね。高校になるともっとです。前に行ける子供もそうではない子供もいて、どちらも輝けるのが共生社会だと思います。

ーー我慢してしまう、自分を出せないタイプの子が輝くために、どんなサポートが有効でしょうか。

言葉にすると「教育相談体制の充実」という言い方になりますが、子供の気持ちを引き出す多種多様な窓口があることが大切です。一般に、学校の中の正規教員の割合は全職員の半分以下と言われており、麹中も同様です。だから窓口は教員とは限らず、保護者を含め、先生と呼ばれる人たち以外も窓口になっていい。どこの窓口でも良いので、子供が自分を出すきっかけを作ってあげるのが大事です。

また、「積極的な教育相談」と私は呼んでいますが、待っているだけではそういう子供からアプローチが来ることはありません。ちょっと気持ちの糸口が見えたら、短時間で良いのでその子供に関わる教職員が集まり、どうやったら高めてあげられるか、次はこうしよう、と組織で考えることが大事です。待っていたらそのまま流れてしまいます。「見守る」というのは得策じゃない、といつも言っています。「もう少し見守ろう」という結論になりそうな時、「いつまで待つの? いつになったら声をかけるの?」と教職員に問いかけています。そこまでしないと、気持ちが言えない子供たちに言ってもらうのは難しい。糸口が見えたら、スッと引っ張ってあげる必要があるのです。

高校に進むと規模感も異なりますし、大人との距離感も変わります。中学のうちに、「言えば大人は助けてくれる」という経験を得て欲しい。その最後のチャンスだと思っています。

ーー麹中で、そのような充実した相談体制が作れそうでしょうか。

着々と作っています。麹中では生徒1人に対して比較的色々な先生の関わりがあると思います。ただ、クラス担任がローテーションで変わるため、子供の変化と担任交代のタイミングが重なってしまった場合、今までとは様子が違うということに気付かない可能性もあります。そのため、毎週教育相談の会議を行い、教職員を集めて子供1人1人について確認し、情報交換の他、子供との相性を考慮したスクールカウンセラーとのマッチング検討なども行っています。組織的・多面的な関わりが重要と思っていますので、今後はその体制を更に強固にしていこうと考えています。

ーー同じ千代田区の神田一橋中から麹町中へ赴任されましたが、麹中の印象はいかがでしょうか。

とにかく生徒が明るい!教員も熱量がすごい!教員から生徒への声かけの頻度も高いですね。その熱量が生徒の明るさを支えているのかなと。職員室から校長室へいつも熱風を感じています(笑)。

気になるのは、麹中がスタンダードだと思ってしまうと、高校で不適応を起こす心配もあり得ること。麹中のような高校も一部にはありますが、ほとんどの高校は公立でも私立でも、ルールがきちんとあります。小学校でも一般的だったようなルールが麹中ではなくなっていて、子供がその楽な状態に慣れてしまい、高校で適応するのが難しい場合がある、というのを卒業生の話でも聞いています。例えば体育の授業前に着替えなければいけないとか、定期考査前の部活停止期間とか、他の中学校にはある習慣が現在の麹中にはないので、高校に入ってからストレスに感じ、「良い高校だと思って入学したのに、理想と違う」となってしまう。それを乗り越えられない子供もいるのが心配です。

ーー卒業後に麹中とのギャップに苦しまないよう、麹中生が高校進学にあたって注意したほうが良いことは何でしょうか。

そもそも高校は麹中とは違う世界だということを理解して進学することだと思います。各学校もパンフレットや説明会では良い面だけをPRしますが、どんなルールがあるのか、本当に進学してやっていけるのかをちゃんと精査して選ぶことを伝えたいです。文化祭だけ見に行って自由そうだったと言っても、それは1年に1日だけの自由なので。

保護者の方からも、高校って麹中とは違うんだよ、とか、ちゃんと勉強しないと大学に繋がらないんだよ、ということを子供にお話しされて良いと思います。基本的なところは保護者の時代から変わらないと思いますので。中学3年の成績が主に問われる高校受験と違って、大学に指定校推薦で行こうと思ったら、高校1年から勉強を積み上げなければいけない。そういう風に高校は中学校とシステムが全然違うので、高校生になるんだという覚悟を持って進学して欲しいなと思います。

ーー多くの高校にはルールがあり、麹中の文化とは異なるため適応に困ることもある、というのが、今年度のキーワードを「整える」にされた背景でしょうか。麹中の何について「整える」必要があるとお考えでしょうか。

「整える」という言葉の背景にはまず、令和3年に改訂された学習指導要領があります。授業時数などの学校の基本、ここだけは守らなければいけない線、というのは学習指導要領によって定められており、学校ごとの特色というのは、それを最低限確保した上で出すものです。

改訂された学習指導要領では、育成する資質・能力の柱が3つに整理され、観点別評価の観点もこれに合わせて3観点になりました。そしてこれらの資質・能力を育むため「主体的・対話的で深い学びの実現」の視点に立った授業改善が重視されています。

改訂は令和3年に行われましたが、コロナ禍の影響で「対話的な学び」が制限されてきました。今年度はようやく「コロナ明け」ということで、全国の学校が新しい学習指導要領に基づいた授業改善をやろうと本格的に研究しています。「単元テスト」など麹中で行ってきた学校改革は、改訂前の学習指導要領に基づいていますので、今度は新しい学習指導要領に基づいた授業改善をやらなければならない。それが「整える」の意味の1つです。

ーー単元テストの変更(再テストの廃止)なども、新しい学習指導要領の観点を踏まえ「整えた」ということでしょうか。

これまでの観点にも「思考・判断」や「表現」はありましたが、改訂で「未知の状況にも対応できる」という言葉がついたのが一番重要です。初めて出会ったシチュエーションで、思考力・判断力・表現力を発揮できる子供たちを育てる。そのために、自分と全く異なる考え方をする相手であっても、相違点と合意点を踏まえながら考えを練り上げていくというような「対話的な学習」を行う。令和3年の改訂にあらためて立ち返り、そういう授業改善をしていく必要があります。単元テストの実施方法の変更もその一部です。数学などの一部の教科では、同じ問題に繰り返し取り組むことも大切です。しかし、「未知の状況への対応力」が求められている今、これまでの再テストの方法も考え直す時期が来ました。ネット社会ですから、単元テストの解答も直ぐにSNS上に流通します。これを覚えて再テストに向かうという習慣を子供たちに身に付けさせてしまうリスクのある仕組みには、各教科の教員から疑問の声が出ています。こういう点を踏まえての、仕組みの変更を行ってきました。

新しい学習指導要領の内容は令和3年よりも前から発表されていましたので、ある程度はこれまでの麹中の学校改革にも取り入れられていると思います。ただ、全てというより、プレゼンテーションなど「表現力」を極めて重視していました。今後は、コロナ禍で制限されてきた「対話的な学習」により、「表現力」が「自分と異なる意見にも柔軟に対応し、表現できる力」になるように整えてあげなければいけないのです。

ただし3年生については、受験の年にシステムが変わるのは良くないので、テストについてはこれまで通りとしました。

新学習指導要領の実施は小学校・中学校・高校と段階的にスタートしており、高校での実施は昨年度からです。高校で新しい指導要領に基づいた授業を行っているということは、これから高校に入学する中学生も、それを前提とした力をつけることが求められます。都立校入試のスピーキングテストもそうですね。

最大の課題は、2024年以降に本格実施される大学入試改革です。今の中学生が大学に入る頃には大学入試が大きく変わることを見据えて、新学習指導要領に基づいた中学校教育をしっかり整え、やらなければと思っています。

ーー2年生のスキルアップ宿泊など、麹中はプレゼンテーションやディスカッションを重視しているように感じていましたが、まだ十分な「対話的な学習」になっていないということでしょうか。

昨年度から宿泊行事も再開し、対話的な学習を始めてはいますが、授業中の対話については感染対策のため制約がありました。本当はもっと、スキルアップ宿泊でやったような、付箋を使って議論する、というのを毎授業でやるようなレベルを求められています。また、麹中のスキルアップ宿泊等は、グループでの取り組みが主ですから、個々の子供の力が本当に伸びているのか?という点では、その在り方には疑問が残ります。グループの中で、ひっそりと時間をやり過ごしていても、学習しているように見えてしまっているのが現状です。一人一人が課題と向き合い切れているのかが、問題となります。そこまでできている学校も多くはないのですが・・。

時間的に議論ばかりというわけにはいきませんけれど、教科書を進めながらも、ポイントについて3分間話し合ってみようとか、授業の一部に短時間の対話を取り入れる。それがコロナ禍でできなくなっていたので、学習指導要領を見直し、もう一度やろうと「3校交流の授業研究会」(麹町中・神田一橋中・九段中等)で話しています。

ーー新しい学習指導要領への対応以外でも「整える」点があるでしょうか。

もう1つ「整える」の背景として、昨年12年ぶりに行われた生徒指導提要の改訂があります。生徒指導提要には生徒指導(生活指導)に関する様々な指針が示されています。改訂版では、校則について、多方面の意見を聞きながらきちんと整える必要があるとされています。

その意図は「ブラック校則」と言われる理不尽な校則を見直した方が良い、ということです。一方で、麹中の場合は真逆で、子供や保護者の判断に委ねられており、自己責任となっている部分が大きくなっています。集団生活の場である学校における基本的なルールがあまり決まっていないため、今後、話し合って最低限のルールを整えていく必要があると考えています。「何でもアリ」にしてしまうと、好き勝手に行動する集団が形成され、嫌だと思っても言い出せない消極的な子供にとっては生活しにくい辛い環境になってしまいますし、ルールがないために教員も指導しづらい状況になっています。

ルールのない状態が長く続いているため、生徒も保護者も「なぜ、やってはいけないのか」ということがわからなくなっている面があります。そのため、問題が起きるたびに曖昧な点を1つ1つ整え、周知するというのを続けています。昔の生徒手帳に書かれていたようなガチガチの「規則」を作るつもりは全くありません。しかし、生徒を指導していて「ここまで基本的なことを指導しないとわからないのかな?」と思うことがあります。高校に行っても同じように指導されるはずで、「麹中なら許されたのに」と反発してしまうと、高校に適応するのが難しくなるのではないかと心配です。

ーー最低限のルールを整えていこうということに対して、教育目標にある「自律・尊重・創造」の「自律」が制限されてしまうのではないかという不安を抱いている生徒や保護者の方もいらっしゃると思います。お考えを聞かせてください。

「自律・尊重・創造」の中で「自律」は土台だと思うのですが、「自律」が「自由」だと誤って解釈されてしまっていると感じています。麹中の過去のパンフレットを確認しても、歴代校長の誰も「自由」という文字は使っていません。しかし生徒のプレゼンテーションなどを聞くと、麹中は「自由」だという表現を多く聞きます。どこかで誤解してしまっているようです。

新入生保護者説明会でも、麹町中学校は「自由」の学校ではない、私たちの目指しているのは「自律」です、とお話ししました。

自由には責任やモラルが伴わなければならないはずですが、その理解がなく、ただ好き勝手に振る舞い楽しければ良いと思ってしまうと、かつての渋谷のハロウィンパーティーのように、他者に危害を加える人が現れ、弱い人たちにとって居づらい集団になってしまいます。学校を決してこのような場にしてはなりません。

「自律」を誤ってそういう「自由」にしてしまうと、多様な人が存在しお互いを認め合う「尊重」も成り立ちません。自律と尊重は強く結びついているのです。

「自律」とは自分個人を律するだけではありません。学校という集団生活では一定の集団規律が必要不可欠です。そんなに厳格なものではなく、「今は話を聞く時」とか、「ちゃんと並ぼう」とか。そういう規律の分かる子供に育てなければ、社会に出て困ることになります。

創造については、異なる価値観を持つ人たちが協力して1つのものを創り上げることが力になるという発想です。一律で画一的なことは創造にはなりません。自律と尊重がセットになった子供たちが協力して初めて創造できるのです。「自律・尊重・創造」はつながっているのですから、全ての土台になる「自律」が「自由」と間違われないように配慮して学校経営を行っていきたいと考えています。

ーーこれまで麹中の学校行事では、子供たちの自主的な運営を重視してきました。今後も子供たち自身に自分たちはどうすべきかを考えてもらう方向性は変わりないでしょうか。

麹中の良さは企画力だと思っています。ただ、これまで、生徒の主体性を重視するあまり、教員が一歩引いていた傾向がありました。今の学習指導要領で求められているのは「主体的に考える生徒を育てる」こと、そして「主体的に進路選択できる生徒を育てる」ことの2点です。そのために学校行事が存在します。子供たち自身が話し合う場に対して、教員はただ見守るのではなく、黒子として関わり、子供自身がよりもっと深く考え、もっと成長できるように、教職員が積極的に指導と支援を行うことが大切であると思っています。

体育祭でも、教員は子供のリーダーシップを重んじなければという空気でしたが、私は大人が前に立って引っ張らなくても、「後ろから適切なアドバイスをタイムリーにしてあげる」ことで子供はさらにリーダーとして育っていくと伝えました。現に、3年生が準備の段階から様々な必要なことに気付き、自分たちで行動してくれました。

麹中生のリーダーシップやエネルギーは際立っていますよ。他校はもっと決められた通りにやるものですが、麹中では3年生がこんなに2年生、1年生を引っ張っていく姿を見て驚きました。予行と本番の間にものすごく話し合って進化したのも印象的でした。

コロナ禍のため全校集会も制限され、そういう場で3年生がきちんと振る舞っている姿を下級生が見る機会も失われていました。こういう機会は中学生にとっては大切で、今後は、先輩の姿を見て考え、学ぶことがもっとできていくと思います。赴任してまだ数ヶ月ですが、とても良い学校だと思っています。

「15歳の春を笑顔で迎えるために」これは中学校教育が目指す目標であり、人生の一つの通過点を表す言葉です。中学校はこの大切な通過点を集大成として目指す教育機関です。3年の卒業を素敵な笑顔で迎えるためには、安全で安心な学校生活の中で、一人一人の生徒が自己実現を図れるよう、真の学力や体力、精神力を育てていくことが重要です。全ての生徒が振り返った時に、「麴町中学校に入学して良かった」と思える学校を目指します。